ネット上には医療情報が氾濫しており、正しいものもあれば誤ったものもあります。誤った医療情報が時に社会問題を引き起こしたり、妊婦様、患者様の不安を必要以上に煽ったりするものがあり、当院医師監修でわかりやすい記事を発信していく必要性を感じておりました。HPが新しくなり女性医学関連コラムコーナーを開設しましたので、今後不定期ですが記事をアップしていこうと思います。
初めての女性医学関連コラムは、ミレーナについての解説記事に致しました。欧米では過多月経や月経困難症の治療法として、また低用量ピルを体質的に服用できない方(肥満、喫煙、高血圧、ピルに副作用がある)の避妊法としてミレーナ(子宮内システム)は非常に普及しています。日本では高価なイメージ、ピルへの誤った情報により、2014年に過多月経や月経困難症の治療に対して保険適用されたにもかかわらず、普及が遅れています。保険診療に関しては価格が決まっておりますが、自費診療に関しては価格を抑えることで、皆様にミレーナの良さを実感頂ければと思っております。
ミレーナとは?
監修:永井産婦人科病院 Dr.S
ミレーナ(IUS:レボノルゲストレル放出子宮内システム)とは、子宮の中に挿入しておくタイプの避妊器具です。
ミレーナには、緊急避妊薬の成分としても使われている「レボノルゲストレル」が含まれており、子宮内で成分が持続的に放出され、高い避妊効果を得られます。
器具と聞くと、金属的なものを想像するかもしれませんが、ミレーナの本体は、やわらかいプラスチックでできています。形はT字型で3cmぐらいの大きさです。以前はリング型だったため、「避妊リング」という名称で呼ばれることもあります。
ミレーナを使用することで日常生活に制限が出ることはなく、性交に影響することもありません。
ミレーナのメリット
■メリットその1:避妊効果が高い
ミレーナから放出されるレボノルゲストレルという成分は、子宮内膜を薄い状態のまま維持したり、子宮の入口の粘液を精子が通りにくい状態にしたりします。これにより、受精卵の着床や、精子の侵入を防ぐことができ、高い確率で妊娠を予防することが可能です。
使用開始後1年以内に妊娠してしまう確率は、日本では一般的な避妊方法であるコンドームが2%、低用量ピル(経口避妊薬)が0.3%なのに対し、ミレーナは0.2%と最も低くなっています。
■メリットその2:手間なく、避妊の失敗もおきにくい
低用量ピルのように毎日内服したり、コンドームのように性行為のたびに装着したりする必要がありません。1度子宮内に入れれば、最長5年間効果が継続します。
さらに、ピルの飲み忘れやコンドームの破損のような避妊の失敗がおきないのも魅力のひとつです。
■メリットその3:過多月経や月経困難症に治療効果が期待できる
ミレーナのもつ、子宮内膜を薄いままに維持する効果によって、経血(月経時の出血)の量が少なくなったり、生理痛が軽くなったりします。そのため、月経困難症や過多月経など、生理痛がひどい方や経血の量が多い方の症状の緩和や改善に効果的です。
また、月経困難症や過多月経を伴う、下記のような婦人科疾患の治療に使われることがあります。状態によっては、ミレーナが使用できない場合もありますので、医師にご相談ください。
・子宮内膜増殖症(異型のないもの)
・子宮内膜症
・子宮腺筋症
・子宮筋腫
ミレーナのデメリット
■デメリットその1:5年以内の交換が必要
ミレーナは一度装着すると最長5年間、効果が持続します。使用期限が近づくと、効果が低下する可能性がありますので、5年を超えないうちに新しいものに交換することが必要です。
■デメリットその2:副作用がおきる場合がある
ミレーナの主な副作用として、月経出血日数の延長、月経時期以外の出血、月経周期の変化、腹痛、卵巣のう胞(一時的なものが多い)などがおこる場合があります。
また、重大な副作用として、子宮や卵管など、骨盤内に炎症がおこる骨盤炎症性疾患や、異所性妊娠(子宮外妊娠)、子宮穿孔(ミレーナが子宮の壁に入り込む)などの可能性もあります。高熱や下腹痛、出血などの異常を感じたら速やかに当院にご連絡ください。
ミレーナの注意事項
■性病は予防できない
HIV感染症(エイズ)やクラミジア、淋病、梅毒などの「性感染症(性病)」を予防する効果はミレーナにはありません。そのため、性感染症の予防にはコンドームの使用が必要になります。
■異常を感じたら速やかに受診を
ミレーナを装着した後は、数日間は出血や下腹痛、腰痛、おりものの色や量、臭いの変化などの症状がでる場合があります。症状が強い場合や長引く場合には、当院にご連絡ください。
また、ミレーナの位置がずれたり、脱出・脱落したりすると、出血量が急に増えたり、痛みが出る場合があります。そのような症状が出た場合は、速やかに当院にお越しください。
■妊娠の可能性がある場合は速やかに受診を
可能性は非常に低いですが、ミレーナを装着中に妊娠することがあります。前回の月経から6週間以内に月経が来ない場合や、吐き気、嘔吐、食欲不振、眠気が強いなどの妊娠の兆候がある場合には、速やかに当院にご相談ください。妊娠していた場合、ミレーナを取り出す必要があります。
■子宮口の糸は引っ張らない
ミレーナを交換する際に用いる糸が子宮口にありますが、決して引っ張らないでください。引っ張ると位置がずれたり、脱出の原因になることがあります。
ミレーナの装着、定期検査、交換
■ミレーナの装着方法
ミレーナは医師が外来で5分程度で装着致します。
装着時期は、月経終了前後の時期になります。
■定期健診の頻度
ミレーナ装着後、1ヵ月後、3ヵ月後、6ヵ月後、1年後に定期検診を受けてください。
1年後以降は、1年に1回の検診になりますが、状況に応じて回数が増える場合があります。
■ミレーナの交換時期
ミレーナ装着後、5年を超えないうちに交換(または除去)する必要があります。4年目・5年目の定期検診の際に、交換時期の案内をいたします。
ミレーナの保険適用
ミレーナは、月経過多と月経困難症への使用について保険が適用されます。
製品名(+手技名) | 保険再診(非課税) | 保険初診(非課税) |
ミレーナ挿入 | 10,620円 | 11,260円 |
ミレーナ抜去 | 2,260円 | 2,900円 |
ミレーナ交換(抜去+挿入) | 12,500円 | 13,140円 |
定期健診 | 1,810円 | 2,450円 |
※上記価格には、初診料、再診料、手技料などすべて含まれております。
避妊目的やPMSの場合は、保険適用にならないため、自費診療になります。
自費診療の場合の価格は、下記の通りです。
製品名(+手技名) | 価格(税込) |
ミレーナ挿入 | 40,700円 |
ミレーナ抜去 | 4,400円 |
ミレーナ交換(抜去+挿入) | 44,000円 |
定期健診(各回) | 2,750円 |
※上記価格には、初診料、再診料、手技料などすべて含まれております。
ミレーナと低用量ピルとの違い
どちらも避妊方法として効果が高く、自費診療であるところや過多月経・月経困難症に効果が高いところは同じです。
大きな違いとして、低用量ピルには副作用として血栓症のリスクがありますが、ミレーナにはそのリスクはありません。そのため、ミレーナは血栓症のリスクの高い喫煙者や肥満の方にも使用できます。
また、低用量ピルは内服が毎日必要になりますが、ミレーナは一度子宮内に挿入すれば、最長5年はなにもする必要がありません。
ミレーナは女性の健康と人生を守る医療器具です。利用を迷われている方はぜひ一度、当院にご相談ください。
—————————
参考書籍:
病気がみえる 婦人科 メディックメディア
参考URL:
ミレーナ 52mg 使用者用説明書
https://gynecology.bayer.jp/static/pdf/MRN200702.pdf
バイエル ミレーナ52mg 添付文書
https://pharma-navi.bayer.jp/omr/online/product_material/MRN_MPI_201909020_1567054403.pdf
バイエル ミレーナ 52mg ご使用中のみなさまへ
https://gynecology.bayer.jp/static/pdf/MRN200701.pdf
医薬品医療機器総合機構 審査報告書 [販 売 名] ミレーナ 52 mg
https://www.pmda.go.jp/drugs/2014/P201400154/630004000_21900AMY00008_A100_1.pdf
医療用医薬品 : レボノルゲストレル
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00067924
DIオンライン 「避妊リング」の月経困難症への使用が保険適用に
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/trend/201409/538291.html
バイエル レボノルゲストレル(ミレーナ®52mg)「月経困難症」に対する保険適用について
https://pharma-navi.bayer.jp/omr/online/bhv_others/140902_MRN_hokentekiyou_nov.pdf